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令和7年4月
国際感染症学院長
今内 覚
ご挨拶
ワクチンや抗菌剤の開発・改良、衛生状態の改善などによって私たちの周囲から感染症は消え去りつつあり、人類が病原体を制圧することも不可能ではないと信じられてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に代表される新興感染症や様々な再興感染症が世界規模で再燃し、各分野での感染症と対峙する専門家の必要性、重要性もまた再認識されています。現在、人類の脅威となっているエボラウイルス病、エムポックス、狂犬病などの感染症は、自然界の野生動物や家畜・家禽・ペットなどの動物を介してヒトに侵入・伝播して悪性感染症を引き起こす人獣共通感染症病原体に起因しています。また、抗菌剤を使用した人や動物に由来する薬剤耐性(AMR)菌問題が年々深刻化しており、世界保健機構(WHO)によるとAMR菌に起因する人の死亡者数は、2050年には1,000万人にも達するとされ、世界規模で喫緊の対策が求められています。 一方、食糧生産に重要な産業動物等においても、高病原性鳥インフルエンザや豚熱等、海外からの侵入と国内での感染拡大は甚大な経済的被害をもたらし続けています。さらに近隣諸国では極めて甚大な被害をもたらす口蹄疫やアフリカ豚熱が流行し、我が国への流入が危惧されています。これらの人獣共通感染症や越境性動物感染症の対策には国の枠組みを越えた対策が必要であり、国際的な協働が不可欠です。これらの感染症の克服には、病原体に関する基礎研究に加えて、自然界における生態や宿主の免疫応答に関する研究、診断、予防、及び治療薬に関する応用研究、さらには感染症の発生予測、リスク評価、管理、国際保健行政に関する幅広い知識と高度な専門性が求められており、このような感染症研究やその対策を指揮できる専門家養成の要望は国内外で一層高まっています。
ヒトや社会の健康保持には、動物の健康や環境の保全を一つとして考える必要があるという「One Health」の概念が国際的広がりを見せています。多くの感染症の克服においても、この「One Health」の理念を推進して、学問・研究領域間の壁を越えた連携が必要です。この様な状況の下、北海道大学では、これまで、21世紀COEプログラムならびにグローバルCOEプログラムにより、人獣共通感染症国際共同研究教育拠点を構築し、博士課程教育リーディングプログラム「One Healthに貢献する獣医科学グローバルリーダー育成プログラム」では、国際舞台で活躍できる獣医学や感染症学の専門家を育成するために、大学院教育を改変して、学際的な視野を養うためのスクーリングの強化を行ってきました。さらに後続の「北海道大学One Healthフロンティア卓越大学院プログラム」では、One Healthにかかわる学際的・実践的な国際活動を取り入れた大学院教育を推進してきました。
国際感染症学院では、以上のようなこれまでの取り組みを発展・強化させ、感染症学領域および獣医学領域における大学院教育のさらなる国際化・学際化を図ります。そのため国際感染症学院では、人獣共通感染症国際共同研究所、獣医学研究院、創成研究機構ワクチン研究開発拠点および医学研究院等の教員が参画することにより、それぞれの専門を活かした分野横断的な教育体制を構築し、世界30カ国以上の共同研究ネットワークを活用して、「感染症プロフェッショナル」の養成を目指して、社会的に問題となっている感染症の制御を主導できる人材を養成します。